【インタビュー&特集記事】
宇佐美典也氏は、経済産業省の官僚出身であり、在任時には知財、電機半導体、エネルギーなどの産業政策に関わってきた。経済産業省在籍時に「三十路の官僚のブログ」で話題となり、その後、「30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと」、「肩書き捨てたら地獄だった ―挫折した元官僚が教える『頼れない』時代の働き方」などの書籍を発表。
現在は、エネルギー事業を営みながら、ギャンブル依存症問題の改善に取り組む。カジノを含む統合型リゾート(IR)に関連しては、産業政策、ギャンブル制度と監督体制、そして、ギャンブル依存症問題、と多面的な視点で深い見識を有する。
宇佐美氏は、IRを推進する立場ではない。むしろ、ギャンブル依存症問題に向き合う立場からの視点が強い。その客観性ゆえに、その意見は、IR無関心層、中立派、そして、反対派に対しても、貴重な示唆を与えるだろう。
宇佐美氏は、IRの議論を契機にギャンブル依存症問題が注目されたことを評価する。また、日本の産業政策に携わってきただけに、IRの観光促進、文化振興、地域創生などにおける経済効果の大きさを十分に理解する。
そのうえで、政府がIR実現を契機にギャンブル依存症問題の対策をしっかり進めるならば、状況が改善する良いきっかけになると期待する。
今回は最終回となる四回目。
宇佐美典也氏 インタビュー:
依存症問題に挑む元官僚 宇佐美典也氏 第3回「ギャンブル依存症は、今がボトム。対策急務」
依存症問題に挑む元官僚 宇佐美典也氏 第2回「カジノを含む統合型リゾート(IR)への期待」
依存症問題に挑む元官僚 宇佐美典也氏 第1回「ギャンブル依存症、制度設計、監督体制に問題意識」
提言1:IR法制~ギャンブル依存症対策、監督官庁の早期の明確化
私はIR議連のIR推進法案、IR実施法案の基本的な考え方に関してかなり違和感を覚えています。既存の法制度との整合性を考えず、また、ギャンブル依存症対策についても「カジノを実現するために渋々取り組む」というような位置づけで扱われているように思えます。
それではIRに関して社会の理解を得られないでしょう。
カジノを導入するためにギャンブル依存症が障害になるならば、まずはきちんと腰を据えてギャンブル依存症対策に取組み、その後にIRの議論に移るのが筋です。
既存の法制と整合性が取れていない「民設民営方式」を拘泥し、他方でギャンブル依存症対策に関する考え方がほとんど盛り込まれていない現状のIR推進法案を前提に議論を進めようとする現状のIR議連の姿勢では、官庁からも社会からも理解を得られないのは当たり前の話です。
急がば回れと言いますが、現状の法案に拘らず、推進法の根本的な在り方から見直すのが一番の近道だと思います。
提言2:ギャンブルを包括、統一的に監督する体制の整備
まず大事なことはギャンブル依存症対策とIR推進法案を切り離して考えることです。
ギャンブル依存症対策にはIRに限らず、パチンコ、公営競技、宝くじ、totoなど既存のギャンブル、その他FXなどのギャンブル性を持つ全ての産業が関わります。
仮にIR推進法の中だけでギャンブル依存症対策を規定してもほとんど問題解決に繋がりません。
そのためIR推進法とは切り離した形で、すべての射幸性産業を包括する「ギャンブル依存症対策基本法」のようなものを成立させて、統一的にギャンブルに付随する問題を管轄する監督官庁・部局を設置すべきと考えています。
私がイメージするのは、近年で言えば消費者庁です。消費者庁は、バラバラに整合性なく各省庁で行われていた消費者政策に一元的な柱を構築すべく、福田康夫首相(当時)のリーダーシップの下で創設されました。
「IRのためにそんな大げさなことはできない」と仰る方もいるかもしれませんが、IRを進めたいならば逃げては通れない論点ですし、そもそもギャンブル依存症対策はIRとは独立にそれはそれとして進めなければならないものです。
それに、政治のリーダーシップがあれば統一的なギャンブルの監督官庁・部局を設立するとしても、それほど、時間はかからないと思います。消費者庁を設立するためのプロセスは、2-3年で完了しました。
また、そこまでしないにしても同じようなアプローチとして知的財産分野では知的財産基本法が成立したことで、我が国の知的財産政策が大きく進展した事例もあります。
IRに関しては、現在、内閣官房がIR実施法案(IR推進法案の成立後に、策定される実際的な法案セット)の検討を進めていると聞いています。そこの業務を拡大する形で「ギャンブル依存症対策基本法」を検討するような動きをIR議連率先して主張するような動きを期待しています。
カジノIRジャパン
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