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IRゲーミング法制度 第37回「刑法の賭博罪とIR~違法性阻却要件を十分に完備」(改訂版)

2016-12-05

【IR資料室】

第37回 刑法の賭博罪とIR法制~違法性阻却の要件を十分に完備

弁護士 渡邉 雅之 (略歴は巻末を参照)

平成28年12月15日未明に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(「IR推進法案」)が成立いたしました。
本国会において、「ギャンブル依存症」と並んで審議の中心となった事項は、「賭博罪の違法性阻却」でした。

「ギャンブル依存症」に関しては、第35回「IR導入はギャンブル依存症対策整備の契機」において、十分に対策を講ずることによりリスクを低減できることについて説明をいたしました。

IR推進法案は民設民営のカジノを含む統合型リゾートの設置を目指すものです。今回は、刑法の賭博罪との関係での民設民営カジノの合法性について検討してみます。

1 刑法の賭博罪

(1)賭博罪の条文

カジノ合法化において必ず検討しなければならないのが、刑法185条の賭博罪及び同法186条2項の賭博開帳罪との関係です。

(賭博)
第百八十五条  賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第百八十六条 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

 

(2)賭博罪の保護法益

賭博罪(刑法185条)の保護法益について、判例は、賭博行為は、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎をなす勤労の美風を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強盗罪その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれすらあるとしています(最大判昭和25年11月22日刑集4巻11号2380頁)。
すなわち、社会的法益の一つとして位置付けられています。

(3)賭博罪の違法性阻却の要件

内閣委員会の質疑でも繰り返し質問されましたが、賭博行為や富くじ販売行為は刑法で禁じられているところ、公営競技(競馬・競輪等)に関しては、特別な法律により「正当行為」(刑法35条)として違法性が阻却されています。

過去の法務大臣・法務大臣政務官の答弁(平成25年11月20日衆議院内閣委員会 当時の平口洋法務大臣政務官等)を参考とすれば、違法性を阻却する要件として考慮すべき項目は次の8点です。

①目的の公益性
②運営主体の性格
③収益の扱い
④射幸性の程度
⑤運営主体の廉潔性
⑥運営主体の公的管理監督
⑦運営主体の財政的健全性
⑧副次的弊害の防止

なお、パチンコ・パチスロに関しては、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風適法」といいます。)上の「遊技」であり、「賭博」ではない。

パチンコ業は、それが刑法の賭博罪が例外として定める「一時の娯楽」(刑法185条但書)の範疇を超えないように、常にそのギャンブル性(射幸性)がコントロールされながら合法的に存在しているので、上記の8つの項目を満たしているものとして正当行為(刑法35条)として違法性阻却されるものではありません。

2 IR推進法案の規定

(1)民営カジノ

IR推進法案には、以下のとおり、「カジノ施設」の「設置」及び「運営」を「カジノ管理委員会から許可を受けた民間事業者」が行うこととされています。
すなわち、IR推進法案は、「カジノ施設」の「施行」及び「運営」を民間事業者が行う、「民営カジノ」の設立を目指すものです。

第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、(以下略)

 

(2)民営カジノを目指す理由

IR推進法案が民営カジノを目指す理由については、国際観光産業振興議員連盟(以下「IR議連」といいます。)の委員である柿沢未途衆議院議員(当時・結の党、現・民進)の平成26年6月18日の内閣委員会での答弁において以下のとおり示されています。

既存の公営競技が公的機関による運営であるのに対し、なぜ、今回、民間事業者、しかもそれに限っているのかということについては、先ほどお答えもありました通り、例えば、宝くじ、あるいは競馬、競輪、こうしたものについては、総賭け金の一定率をまず主催者が取って、そして残りの部分を顧客というかお客さんに払い戻すという仕組みになっている、つまり、利幅というものが一定程度事前にリザーブをされている、こういう仕組みになっているものであるのに対しまして、今回、カジノというのは、顧客に向き合って、そして賭けられたチップ、あるいは金銭に相当するものを、勝った場合は総取りする、こういう仕組みでありますから、主催事業者の負うリスクは非常に大きいということがある、こういうことは先ほども申し上げたとおりだと思います。

これについて、例えば、競馬に関して言えば、控除率25%、売り上げの25%は主催者が取るということがもう決まっているわけですね。宝くじに至っては55%、totoは50%ということになっているわけです。
ここからは、一般論として想定されるということで、前置きを置いて申し上げますけれども、世界中のカジノでこうした還元率がどのぐらいになっているかというと、大体、主催者の取り分は3%以内。顧客に返す分が多いところでいえば、98%、99%ということになっております。
逆に言うと、それだけたくさんのお客さんがお見えになって、そして、たくさんの金銭がそこで投じられるということが前提になっているわけですけれども、ここから見ても、主催事業者が大変大きなリスクを負う可能性があるということを理解していただけると思います。

だからこそ、民間事業者がこれを負担するというスキームが望ましいというふうに私たちは考えているわけであります。

また、シンガポールの例も出ましたが、シンガポール、マカオ、遡ってラスベガス、今、大成功しているケースというのは全て、民間事業者が一旦寂れたカジノをもう一度盛り上げようということでさまざまな創意工夫を凝らした結果として今の成功がもたらされている。

そういう点から申し上げましても、今の日本の公営競技がどうなっているかという状況と比較対照すれば、やはり民間事業者がやるのが望ましいのではないか、こういうふうにも思っているところであります。

 

(3)民営カジノの合法化の検討はIR実施法案による

IR推進法案が成立したとしても民設民営カジノについて、刑法の賭博罪との関係で違法性阻却が認められるわけではありません。IR推進法案は基本法(プログラム法)に過ぎず、同法案5条により、政府が1年を目途として講ずべき法制上の措置(すなわち、IR実施法案)により、はじめて民設民営カジノが刑法の賭博罪との関係で違法性阻却されることになります。

平成28年12月2日の衆議院の内閣委員会で採択された15項目の附帯決議(平成28年12月8日の参議院の内閣委委員会の附帯決議でも同じ。)の一つとしても、以下のとおり、政府が1年を目途として講ずべき法制上の措置(すなわち、IR実施法案)において、上記1(3)で掲げた8項目の観点から、刑法の賭博に関する法制との整合性について十分に検討することとされました。

2.政府は、法第5条に基づき必要となる法制上の措置を講ずるにあたり、特定複合観光施設区域の整備の推進の目的の公益性、運営主体の性格、収益の扱い、射幸性の程度、運営主体の廉潔性、運営主体の公的管理監督、運営主体の財政的健全性、副次的弊害の防止等の観点から、刑法の賭博に関する法制との整合性が図られるよう十分な検討を行うこと。

 

(4)IR推進法案にも違法性阻却に関する項目は規定されている

平成28年12月2日の衆議院内閣委員会の緒方林太郎衆議院議員(民進)の質問とそれに対する法案提出者の答弁により、IR推進法案においても、上記1(3)で掲げた違法性阻却に関する各観点が規定されていることが明確化されました。

ア 目的の公益性(①)
本法律は、カジノ単体ではなく、会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設を加えるIRの設立を目指すものであり、全体として公益性が認められます。
また、IR推進法案1条の目的においては、「特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資する」こととされており、明らかに公益の目的に資するものと言えます。
さらに、衆参の附帯決議のとおり、納付金は、依存症対策という公益目的も使途とすることとされています。

15.法第12条に定める納付金を徴収することとする場合は、その使途は法第1条に定める特定複合観光施設区域の整備の推進の目的と整合するものとするとともに、社会福祉、文化芸術の振興等の公益のためにも充てることを検討すること。また、その制度設計に当たっては、依存症対策の実施をはじめ法第10条に定める必要な措置の実施や周辺地方公共団体等に十分に配慮した検討を行うこと。

 
イ 運営主体に関する項目(運営主体の性格(②)、運営主体の廉潔性(⑤)、運営主体の公的管理監督(⑥)、運営主体の財政的健全性(⑦))
IR事業者は、民営事業者ではありますが、カジノ運営者を含むカジノ施設関係者に対しては、カジノ管理委員会(カジノ施設関係者に対する規制)を設置して、厳格な規制に服することとされています(IR推進法案9条、11条)。

ウ 収益の扱い(③)
IR推進法案12条において、「国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の設置及び運営をする者から納付金を徴収することができるものとする。」とされています。また、同法案13条において、「国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができるものとする。」と規定されています。

IR推進法案3条の基本理念においては、「適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ施設の収益が社会に還元されることを基本として行われる」とされているところであり、「納付金を徴収することができる」という規定と併せて、地方公共団体が提出する申請の中でしっかりと収益を上げ、納付金を取ることも含めてそうした規定の中で社会に還元されるということを基本として国が認定しているという仕組みになっています。

これらの規定(IR推進法案12条、13条)は、「徴収することができる」としていますが、法案提出者の意思としては、「納付金」及び「入場料」を徴収することを想定しています(この点に関しては、IR議連の「特定複合観光施設区域整備法案(仮称)~IR実施法案~に関する基本的な考え方」を参照。)。

前例を紐解いてみると、「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」においては、IR推進法案のような基本法はなく実施法となっているところ、同法22条においては、「センターは、・・・スポーツ振興投票に係る収益金の一部を国庫に納付しなければならない。」との規定があります。
これに対して、今回の法制化においては、IR推進法案とIR実施法案は2段構えにした関係もあり、ややソフトな規定にしている。当然、IR実施法案の段階では、このような規定が置かれるものということを前提として考えています。

エ 副次的弊害の防止(⑧)
IR推進法案10条(カジノ施設の設置及び運営に関する規制)に項目を挙げて、それぞれの項目でカジノ施設の利用に伴う悪影響が生じることの様々な措置を講ずることとしています。

(カジノ施設の設置及び運営に関する規制)
第十条 政府は、カジノ施設の設置及び運営に関し、カジノ施設における不正行為の防止並びにカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行う観点から、次に掲げる事項について必要な措置を講ずるものとする。

一 カジノ施設において行われるゲームの公正性の確保のために必要な基準に関する事項
二 カジノ施設において用いられるチップその他の金銭の代替物の適正な利用に関する事項
三 カジノ施設関係者及びカジノ施設の入場者から暴力団員その他カジノ施設に対する関与が不適当な者を排除するために必要な規制に関する事項
四 犯罪の発生の予防及び通報のためのカジノ施設の設置及び運営をする者による監視及び防犯に係る設備、組織その他の体制の整備に関する事項
五 風俗環境の保持等のために必要な規制に関する事項
六 広告及び宣伝の規制に関する事項
七 青少年の保護のために必要な知識の普及その他の青少年の健全育成のために必要な措置に関する事項
八 カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴い悪影響を受けることを防止するために必要な措置に関する事項

2 政府は、前項に定めるもののほか、外国人旅客以外の者に係るカジノ施設の利用による悪影響を防止する観点から、カジノ施設に入場することができる者の範囲の設定その他のカジノ施設への入場に関し必要な措置を講ずるものとする。

 
上記以外にも、法案提出者の意思としては、当初設置する特定複合観光施設区域の数をIR実施法案で限定することや、シンガポールのように、カジノ施設の面積がIR全体の3%以下とすることにより、副次的弊害の防止をして違法性阻却をし易いようにしたいと考えています。

前者については、平成28年12月2日に衆議院内閣委員会で採択された附帯決議でも以下のとおり示されています。

4.特定複合観光施設区域の数については、我が国の複合観光施設としての国際的競争力の観点及びギャンブル等依存症予防の観点から厳格に少数に限ることとし、区域認定数の上限を法定すること

 
後者については、平成28年12月8日の参議院内閣委員会で採択された附帯決議において以下のとおり示されています。

3.特定複合観光施設区域に関しては、国際的・全国的な視点から真に観光及び地域経済の振興の効果を十分に発揮できる規模のものとし、その際、特定複合観光施設全体に占めるカジノ施設の規模に上限等を設けるとともに、あくまで一体としての特定複合観光施設区域の整備が主眼であることを明確にすること。

 

(5)国会答弁・附帯決議はIR実施法案におけるマンデート

議員立法においては、法案の内容のみならず、法案提出者や法案の附帯決議がその後の政府の法制化において非常に重要視されます。IR推進法案においても、今回の一連の国会答弁及び附帯決議が、政府が策定するIR実施法案において尊重されることになります。

3 民営カジノと公営競技の合法化との比較

IR実施法案における民営カジノの合法化について、公営競技の合法化と比較して検討してみます。

刑法の賭博罪の違法性阻却の8つの項目(上記1(3))は、総合的判断により、個別具体的に判断されるものです(平成28年12月2日の盛山正仁法務副大臣の答弁)。
したがって、違法性阻却の8つの項目を完璧に満たさなければならないものではないと考えられます。

例えば、「射幸性の程度」に関しては、公序良俗に反するものでない限り、公営競技でも制限されるものではありませんし、IR実施法案において設けられる民間カジノにおいても同様でしょう。
この項目は、むしろ、パチンコ・パチスロのような風適法上の「遊技」の射幸性を意識した要件であると考えられます。

以下の比較表の通り、公営競技の合法化はかなり「公的主体」であること(「目的の公益性」、「運営主体の性格」、「収益の扱い」、「運営主体の廉潔性」)によるものであると考えられます。
「運営主体の公的管理監督」、「運営主体の財政的健全性」、「副次的弊害の防止」が十分であると言えるか疑問があります(とりわけ「副次的弊害の防止」)。ギャンブル依存症対策や広告規制などについてしっかりとした対策を講じていくことが求められます。

これに対して、IR実施法案による民営カジノは、カジノ管理委員会の厳格な監督を通じて、「運営主体の廉潔性」、「運営主体の公的管理監督」、「運営主体の財政的健全性」は公営競技よりも優れたものとなることが想定されます。

また、「副次的弊害の防止」に関しては、ギャンブル依存症や入場料規制等の公営競技で全く取り組まれていないことを新たに取り組もうとするものです。

以上を総合的に考えると、IR実施法案による民営カジノは、刑法の賭博罪の違法性阻却の要件を十分に満たすものではないかと考えられます。

比較項目 民設民営カジノ 公営競技
根拠法 IR実施法案 競馬は競馬法及び日本中央競馬会法、競艇はモーターボート競走法、競輪は自転車競技法、オートレースが小型自動車競走法、宝くじは当せん金付証票法、totoはスポーツ振興投票の実施等に関する法律
目的の公益性 ・カジノ単体ではなく、会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設を加えることによりIR全体として公益性が認められる
・観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資する
・依存症対策にも納付金が充てられる
(例えば競馬法においては)馬の改良増殖その他畜産の振興という健全な社会的な目的
運営主体の性格 民間事業者(カジノを含むIR施設の運営者)であるが、カジノ管理委員会を設置して、公営競技以上の厳格な規制に服する 日本中央競馬会、都道府県等の公的主体
収益の扱い ・納付金・入場料を通じてカジノ施設の収益を社会に還元
・売上からの控除率は国際競争力も考慮して決める
・収益の一部を主催者が控除
・売上からの控除率:競馬は25%は宝くじは55%、totoは50%
射幸性の程度 原則制限なし 原則制限なし
運営主体の廉潔性 カジノ管理委員会がIR事業者の廉潔性を背面調査等を通じて厳格に審査する 公的主体であるため廉潔性が認められるとされる
運営主体の公的管理監督 カジノ管理委員会によるIR事業者や関係者の厳格な監督 競艇は国土交通省、競輪とオートレースは経済産業省、競馬が農林水産省、宝くじは総務省、totoは文部科学省
運営主体の財政的健全性 カジノ管理委員会のIR事業者への免許付与において厳格な審査 公的主体であるため運営主体の財政的健全性はあまり問題視されない(実際には財政難の公営競技もある)
副次的弊害の防止 ・ギャンブル依存症対策、治安維持、反社対策、マネロン対策など万全な対策
・厳格な入場規制
・厳格な広告規制
・IR区域の数を限定する
・カジノ施設の面積をIR全体の3%程度に留める
・一定の反社対策は取られているものの、ギャンブル依存症対策は皆無
・入場規制なし
・宝くじ等広告規制なし

 

4 「収益の使途の公益性」と「官又はこれに準ずる団体」について

公営競技に関する賭博罪の違法性阻却についての従前の法務省のペーパーでは、「目的の公益性」及び「運営主体の性格」について、「目的の公益性(収益の使途を公益性のあるものに限ることも含む)」、「運営主体の性格(官又はこれに準ずる団体に限るなど)」と記載されておりました。

これは、「目的の公益性」としては「収益の使途が公益性のあるものに限られる」こと、「運営主体の性格」については「官又はこれに準ずる団体に限られる」ことを要求しているようにも読め、これが民営カジノ(正確にはカジノ施設を含む統合型リゾート)では8つの観点から賭博罪の違法性阻却が認められないとする主要な論拠となっていました。

しかしながら、平成28年12月8日の参議院内閣委員会における大門実紀史議員の質問に対する加藤 俊治 政府参考人 (法務省大臣官房審議官)の答弁において、刑法の所管官庁である法務省としては、①「目的の公益性」に関して「収益の使途の公益性」は一例でこれに限定されないこと、②「運営主体の性格」に関して「官又はこれに準ずる団体」であることは一例にすぎないことが明らかになりました。

これにより、民営カジノ(カジノ施設を含む統合型リゾート)に関して、賭博罪の違法性阻却が認められないとする支障は全くなくなったのです。

5 民間事業者による合法的な賭博行為が認められるのは今回の法制が初めてではない

実は民間事業者が行う賭博行為が合法化されるのは今回が初めてではありません。既に、民間事業者が合法的に行っている賭博(類似)行為としては、デリバティブ取引と保険があります。

(1)デリバティブ取引

デリバティブ取引は、カジノと同様に個人顧客を相手として行われている外国為替証拠金取引もあります。

デリバティブ取引は「偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為」として賭博罪(刑法185条)の構成要件に該当すると考えられます。

デリバティブ取引に関しては、金融商品取引法202条2項において、金融商品取引業者や銀行等の登録金融機関が一方の当事者となるものについては、刑法186条(常習賭博罪・賭博開帳罪)の適用はない、すなわち違法性阻却されることとされています。

平成11年11月29日に日本銀行が事務局となる金融法委員会が公表した「金融デリバティブ取引と賭博罪に関する論点整理」 においては、賭博罪の違法性阻却が正当事由(刑法35条)により認められるための実質的な理由として、「金融デリバティブ取引の実質的な正当性ないし相当性を判断する要素としては、従来より、(i)取引当事者の属性(金融機関その他の資力・知識を有する当事者かどうか)、(ii)当該取引を行う目的(ヘッジ目的か、投機目的か)、(iii)レバレッジ(倍率)が高いかどうか、(iv)損失の最大値がどの程度か(取引金額の多寡)、さらに場合によって(v)損失のリスクを負担しているのが業者の側か、顧客の側か等の要素があるとされているが、大きく整理すると、結局のところ、①当該取引の目的の相当性と②当該取引自体の相当性の2つの要素が重要ではないかと思われる。」とされています。

(2)保険

保険も賭博と同様に射幸契約です。しかしながら、保険特有の強行法規性が妥当することにより賭博罪の違法性が阻却すると考えられてきました。

具体的には、保険契約特有の法規整のうち「被保険利得要件」、「利得禁止原則」、「他人の生命の保険における被保険者同意要件」といった強行法規整は、保険の賭博化の防止が存在理由の一つとして挙げられます(山下友信「保険法」(有斐閣・2005年・72頁)。
したがって、筆者が「国会議事堂に火災保険を付すること」や「米国大統領に生命保険を付すること」はいずれも賭博行為となります。

6 終わりに

今臨時国会におけるIR推進法案の審議に関しては、「拙速である」とのマスメディアからの意見が散見されます。

しかしながら、民間カジノの賭博罪の違法性阻却との関係に関しては、緒方林太郎議員の質問とそれに対する法案提出者の答弁を通じてかなり整理されたのではないかと考えられます。

IR推進法案やその附帯決議を通じて、政府が目指すIR実施法案においては新たなチャレンジである「民営カジノ」となるものと考えられます。
その新たなチャレンジの実現する可能性はかなり高いと言ってよいのではないでしょうか。


渡邉 雅之 弁護士法人三宅法律事務所 パートナー弁護士

(略歴) (役職)
1995年:東京大学法学部卒業
1997年:司法試験合格
2000年:総理府退職
2001年:司法修習修了(54期)
弁護士登録(第二東京弁護士会)
2001年~2009年:アンダーソン・毛利・友常法律事務所
2007年:Columbia Law School (LL.M.)修了
2009年:三宅法律事務所入所
成蹊大学法科大学院 非常勤講師
(金融商品取引法担当、平成20年~)
日本弁護士連合会 民事介入暴力対策委員会 委員
日本弁護士連合会 国際刑事立法委員会 委員
第二東京弁護士会 民事介入暴力対策委員会 委員
第二東京弁護士会 司法制度調査委員会
民法改正部会 委員
第二東京弁護士会 綱紀委員会 委員

(主要関連論稿)
『IR導入に当たって検討すべきマネー・ローンダリング、反社会的勢力の関与の問題と提言』(NBL1036号・2014年10月15日号)
『日本におけるカジノ導入とギャンブル依存症問題』(週刊金融財政事情2014年10月6日号(3091号))
『カジノ導入に当たっての論点整理(上)・(下)』(共著)(NBL1014、1015号、2013年12月1日号・12月15日号)
「IR推進法の概要と検討すべき問題点」(週刊金融財政事情2014年1月6日号)
「カジノ法案が想定するビジネスモデルと各種規制」(ビジネス法務2014年3月号)

(関心を持った経緯と今後の研究)
もともと、銀行等の金融機関のコンプライアンスを中心に弁護士業務を行ってきました。米国留学時にラスベガスを訪問しましたが、日本において同様の統合的なリゾートができれば、経済発展に非常に資すると実感いたしました。
カジノは、金融規制、マネー・ローンダリング、反社会的勢力の排除など、「小さな銀行」といった性格があり、これまでやってきた業務に非常に親近性があります。 日本においてIR(カジノを含む統合的リゾート)を導入するにあたって、どのような規制を設けていくべきかという観点から研究を続けてまいりたいと思います。


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