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IRにおけるゲーミングライセンス制度 第29回「『特定複合観光施設区域』の申請主体:都道府県か?市町村か?」

2015-06-03

【IR資料室】

第29回 「特定複合観光施設区域」の申請主体:申請主体は都道府県か?市町村か?

弁護士 渡邉 雅之 (略歴は巻末を参照)

1 「IR実施法案の基本的な考え方」に示されている申請主体

今回は「特定複合観光施設区域」の申請主体について検討いたします。これまでの連載においては、市町村が申請主体であることを前提としてきましたが、果たして「特定複合観光施設区域」の申請主体は基礎的な地方公共団体である「市町村」となるのでしょうか?それとも、より広域の地方公共団体である「都道府県」となるのでしょうか?

この点についての手がかりは、IR推進法案の規定中にはありませんが、IR議連の「特定複合観光施設区域整備法案(仮称)~IR実施法案~に関する基本的な考え方」(「IR実施法案の基本的な考え方」)には以下のとおり、「地方公共団体ないしはその一部事務組合の申請に基づき」と記載されています。ここにいう「地方公共団体」が「市町村」であるのか「都道府県」であるのかは明らかではありません。

●特定複合観光施設と特定複合観光施設区域の指定
カジノ施設、宿泊施設、会議場施設、展示施設、リクリエーション施設、飲食施設、物品販売施設等地域の観光に資する集客施設群を「特定複合観光施設」(これがIRとなる。但し、IRは法律上の定義ではない)と定義し、一定の条件の下にかかる施設を設置できる区域として、地方公共団体ないしはその一部事務組合の申請に基づき、主務大臣が指定する区域を「特定複合観光施設区域」と定義する。この区域・施設の内部においてのみ、カジノ施設の設置と施行ができる。

 

2 「都道府県」、「市町村」、「一部事務組合」の意義と権限

以下では、「都道府県」、「市町村」、「一部事務組合」の意義について説明します 。(*1)

(*1) 塩野宏「行政法III(行政組織法)[第3版]」(有斐閣・2011年)134頁以下の説明を参考にしています。

(1)「普通地方公共団体」と「特別地方公共団体」
地方自治法上の地方公共団体は、「普通地方公共団体」と「特別地方公共団体」の2つに分かれます(同法1条の3第1項)。
「普通地方公共団体」とは、「都道府県」および「市町村」をいいます(同条2項)。
「特別地方公共団体」は、「特別区」、地方公共団体の「組合」および「財産区」をいいます(同条3項)。「一部事務組合」も「組合」の一類型であり、「特別地方公共団体」に該当します。

(2)「市町村」の区別
普通地方公共団体のうち、「市町村」の区別について説明します。
」は、
①人口5万人以上有すること、
②当該普通地方公共団体の中心の市街地を形成している区域内に在る戸数が、全戸数の6割以上であること、
③商工業その他の都市的業態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数が、全人口の6割以上であること、
④上記に定めるものの外、当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件を具えていること、
を要件とします(地方自治法8条1項)。

」は、当該都道府県の条例で定める町としての要件を具えていなければなりません(同条2項)。それ以外が「」となります。

(3)「都道府県」の区別
都道府県」は「市町村」を包括する広域の地方公共団体です(地方自治法5条2項)。「都道府県」のうち、「」と「」は実質的な差異はありません。

」と「都府県」の違いは、歴史的な経緯によります。「都府県」は明治政府が江戸幕藩体制の「藩」を国の直轄する地方機関である「県」「府」に置き換えたものです。

これに対して、当時の蝦夷地(北海道)には江戸幕府の支配は及んでおらず、藩もなかったため新しい一つの地方機関で管轄することになりそれを「北海道」と命名されました。「都府県」は、これを外して、「東京」「神奈川」のように表記・呼称することがあるのに対し、北海道については「道」を外して単に「北海」と表記・呼称することは通常ありません。

」は、東京都に限られず一般的な制度です。「県としての機能」と「市としての機能」の2つをあわせもっています。また、その区域に「特別区」を有する点が「都」の特徴です(市町村も包含します。)。
先の住民投票により、大阪市と大阪府が「大阪都」を目指したのも、大阪府の機能と大阪市の機能を一元化することを目指したものでした。

(4)「都道府県」と「市町村」の関係
「普通地方公共団体」である「都道府県」および「市町村」は、地方自治法上いずれも完全な自治体として扱われます。ただし、「都道府県」が「市町村」を包括する関係にあることから、地方自治法は、それぞれが担当すべき事務の範囲について整理を行って、それぞれの性格付けをしています。

市町村」は基礎的な地方公共団体であって、その処理をするべき事務は概括的です。これに対して、「都道府県」は、広域の地方公共団体であり、その行う事務は、①広域にわたるもの(広域事務)、②連絡調整に関するもの(連絡調整事務)、③その規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるもの(補完事務)とされています(地方自治法2条5項)。

「補完事務」は、事務の規模が大きく、その処理に大きな財政負担を生じ、一般の市町村ではその負担に耐えられないもの、事務の性質から高度な技術力や専門的な能力を必要とするために、一般の市町村で各自必要な人材等を確保して処理することが困難または著しく非効率であるものなどです。ただし、「補完事務」については、市町村の規模および能力に応じて、市町村でも処理することができるとされています(同条3項)。

全国知事会の「地方分権下の都道府県の役割─自治制度研究会報告書─」(*2)(平成13年7月)は、地方が処理すべき事務のうちで、都道府県が処理すべき事務であるか否かを判断する際の基準として、次の6つのメルクマールを設定しています。

(*2)地方分権下の都道府県の役割 ─ 自治制度研究会報告書 ─ へのリンク

①産業(製品・サービスの生産・供給)に係るものであるか(広域事務)
②法人等に係るものであるか(広域事務)
③行政対象が広域的に一体のものであるか(広域事務)
④行政需要・行政対象が広域的に散在しているものであるか(広域事務または補完事務)
⑤相当高度の専門性を必要とするものであるか(補完事務)
⑥市町村を包括する団体という性格に係るものであるか(連絡調整事務または補完事務)

 
(5)一部事務組合
「一部事務組合」とは、普通地方公共団体(都道府県、市町村)がその事務の一部を共同して処理するために設ける「特別地方公共団体」です(地方自治法284条2項)。

一部事務組合が成立すると、共同処理するとされた事務は、関係地方公共団体の権能から除外され、一部事務組合に引き継がれます(同条3項)。都道府県が加入する一部事業組合は総務大臣、その他のものは都道府県知事の許可を得て設ける特別地方公共団体です(同条3項)。規定上は、異なる都道府県(例えば、X県およびY県)が共同で一部事務組合を設立することも可能です。

隣接する中小規模の市町村が消防・ゴミ処理・火葬場等の運営を行なうために設けることが多く、小規模な町村や自治体を超えて近接する地区で一部事務組合によって小・中学校・高等学校・大学を運営する事例もあります。
公営競技(地方競馬・競輪・競艇)を主催するための団体、港湾管理者として設置している団体もあります。

公営競技についてみると、川崎競馬は、神奈川県と川崎市が構成する一部事務組合「神奈川県川崎競馬組合」が主催しています。船橋競馬は、千葉県、船橋市、習志野市で構成する一部事務組合「千葉県競馬組合」が主催しています。
「名古屋競輪組合」は、愛知県と名古屋市が組織する一部事務組合です。名古屋県競輪組合規約によれば、利益金は愛知県と名古屋市で折半することとされています。
「東京都六市競艇事業組合」は、八王子市、武蔵野市、昭島市、調布市、町田市および小金井市で組織される一部事務組合です。
渡邊弁護士-二十九回-画像

3 「特定複合観光施設区域」の申請主体について考える

(1)IRに関して地方公共団体が行う事務は都道府県が行うべき事務か?
IR推進法案や将来制定されるであろうIR実施法案上、地方公共団体が行うと想定されている事務は、①IR事業者(民間事業者)の選定、②IR事業者からの納付金の徴収、③入場料の徴収に限られています(IR推進法案12条、13条)。

これらのみに着目すると、地方公共団体が行うとされるIRに関する事務は、上記2(4)「広域事務」、「連絡調整事務」、「補完事務」のいずれにも該当せず、市町村が行うべき事務のようにも思われます。

しかしながら、これらの法律上定められる地方公共団体の事務のみに着目するのは適当ではないでしょう。
(a)IRが観光振興、地域振興に資するものであること、
(b)IR導入には地方公共団体にも相当の財政的負担が想定されること、
(c)カジノのもたらす負の影響(特に交通アクセス・交通渋滞)は、「特定複合観光施設区域」が設定される市町村だけでなく周辺の市町村にも及び得るであろうこと、といった点にも着目すべきでしょう。

観光振興や地方振興といった点を強調すると、「産業(製品・サービスの生産・供給)に係るものであるか」というメルクマールの観点から、広域事務として、都道府県が処理することが望まれる事務と考えられます。

IR導入には地方公共団体にも相当の財政的負担が想定されることという点を強調すると、補完事務として、都道府県が処理することが望まれる事務に該当すると考えられます。

カジノのもたらす負の影響に対する対策について周辺市町村も含めて検討するという観点からも、広域事務として都道府県が対応することが望まれるものと考えられます。

カジノからもたらされる納付金や入場料などの収益を一つの市町村のみが享受してよいのかという点も考慮する必要があるでしょう。
IR事業者の監督は、地方公共団体ではなく、国のカジノ管理委員会によりなされますが、IR事業者の選定という事務は、「法人等に係るもの」として広域事務として、都道府県が行うことが望まれる事務と考えられます。

結論としては、IRに関して地方公共団体が行う事務は、市町村が単独で行うことができる事務か、都道府県が行うべき事務か、という点は明確には言えませんが、都道府県が関与することが望まれる事務であると言えるでしょう。もちろん、市町村の中でも規模および能力が相当大きなところは、単独でこれらの事務を行うことができると考えられます。

(2)望まれる申請主体
私見としては、IR実施法案では以下のとおり様々な申請方法を認めるべきだと考えます。都道府県と「特定複合観光施設区域」が設置される市町村、または、収益を標準化するために近隣の都道府県や市町村とともに申請することもあり得るべきです。
一方、東京都は単独で申請することが想定されますが、道府県については単独で申請をすることは想定できないと考えられます。

①「特定複合観光施設」を設置する一の市町村の単独での申請(例:A市)
②「特定複合観光施設」を設置する一の市町村と周辺の市町村の一部事務組合による申請(例:A市、B市、C市の一部事務組合)
③「特定複合観光施設」を設置する一の市町村と当該市町村を包摂する都道府県の一部事務組合による申請(例:A市およびX県の一部事務組合)
④「特定複合観光施設」を設置する一の市町村、周辺の市町村およびこれらの市町村を包摂する都道府県の一部事務組合(例:A市、B市、C市およびX県の一部事務組合)
⑤「特定複合観光施設」を設置する一の市町村、周辺の市町村ならびにこれらの市町村を包摂する都道府県および近隣の都道府県の一部事務組合(例:A市、B市、C市ならびにX県およびY県の一部事務組合)

 
(3)同一都道府県において複数の市町村が申請を希望する場合
都道府県内で一つの市町村しか「特定複合観光施設区域」の申請をしない場合は、当該市町村と都道府県が一部事務組合を設立し、申請するケースが多くなると思います。

問題は、同一都道府県内において複数の市町村が「特定複合観光施設区域」の申請を希望する場合です。北海道では、現在、苫小牧市、釧路市および小樽市がIRの設立を希望しています。大阪府では、大阪市(夢洲地区)および泉佐野市がIR設立を希望しています。

この場合、都道府県は難しい立ち位置におかれることになります。一つの市町村との間で一部事務組合を設立しようとする場合、広域的な地方公共団体として一つの市町村のみ優遇してよいのかという問題が生じ得るでしょう。

仮に、大阪市が目指した「大阪都」が、実現していれば、上記2(3)のとおり、「都」は「県としての権能」と「市としての権能」を有するため、一部事務組合を設立しなくても申請できたかもしれません。

このような場合は、「特定複合観光施設区域」の申請の段階では、都道府県は一部事務組合に関与せず、それぞれの市町村が単独で(または近隣の市町村と一部事務組合を組成して)申請をし、特定の市町村が「特定複合観光施設区域」に認定された段階で、当該市町村と追加的に一部事務組合を組成するのが望ましいかもしれません。

市町村は申請の段階では、「特定複合観光施設区域」に認定をされた場合には、都道府県と一部事務組合を組成することを検討する、という条件付にしておくのがよいと思われます。


渡邉 雅之 弁護士法人三宅法律事務所 パートナー弁護士

(略歴) (役職)
1995年:東京大学法学部卒業
1997年:司法試験合格
2000年:総理府退職
2001年:司法修習修了(54期)
弁護士登録(第二東京弁護士会)
2001年~2009年:アンダーソン・毛利・友常法律事務所
2007年:Columbia Law School (LL.M.)修了
2009年:三宅法律事務所入所
成蹊大学法科大学院 非常勤講師
(金融商品取引法担当、平成20年~)
日本弁護士連合会 民事介入暴力対策委員会 委員
日本弁護士連合会 国際刑事立法委員会 委員
第二東京弁護士会 民事介入暴力対策委員会 委員
第二東京弁護士会 司法制度調査委員会
民法改正部会 委員
第二東京弁護士会 綱紀委員会 委員

(主要関連論稿)
『IR導入に当たって検討すべきマネー・ローンダリング、反社会的勢力の関与の問題と提言』(NBL1036号・2014年10月15日号)
『日本におけるカジノ導入とギャンブル依存症問題』(週刊金融財政事情2014年10月6日号(3091号))
『カジノ導入に当たっての論点整理(上)・(下)』(共著)(NBL1014、1015号、2013年12月1日号・12月15日号)
「IR推進法の概要と検討すべき問題点」(週刊金融財政事情2014年1月6日号)
「カジノ法案が想定するビジネスモデルと各種規制」(ビジネス法務2014年3月号)

(関心を持った経緯と今後の研究)
もともと、銀行等の金融機関のコンプライアンスを中心に弁護士業務を行ってきました。米国留学時にラスベガスを訪問しましたが、日本において同様の統合的なリゾートができれば、経済発展に非常に資すると実感いたしました。
カジノは、金融規制、マネー・ローンダリング、反社会的勢力の排除など、「小さな銀行」といった性格があり、これまでやってきた業務に非常に親近性があります。 日本においてIR(カジノを含む統合的リゾート)を導入するにあたって、どのような規制を設けていくべきかという観点から研究を続けてまいりたいと思います。


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