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IRゲーミング法制度 第32回「カジノ施設のマネー・ローンダリング対策・反社対策の提言」

2015-08-20

【IR資料室】

第32回 カジノ施設におけるマネー・ローンダリング対策・反社対策の提言

弁護士 渡邉 雅之 (略歴は巻末を参照)

今回は、カジノ施設におけるマネー・ローンダリング対策および反社会的勢力への対策についての提言をいたします。

1 IR推進法案と「IR実施法案の基本的な考え方」

特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(「IR推進法案」)では、カジノ施設の設置および運営に関して、カジノ施設における不正行為の防止ならびにカジノ施設の設置および運営に伴う有害な影響の排除を適切に行う観点から、以下の措置を求めています(同法案10条3号・4号)。

◇ カジノ施設関係者及びカジノ施設の入場者から暴力団員その他カジノ施設に対する関与が不適当な者を排除するために必要な規制に関する措置
◇ 犯罪の発生の予防及び通報のためのカジノ施設の設置及び運営をする者による監視及び防犯に係る設備、組織その他の体制の整備に関する事項

 
国際観光産業振興議員連盟(「IR議連」)の「特定複合観光施設区域整備法(仮称)~IR実施法案~に関する基本的な考え方」(「IR実施法案の基本的な考え方」)では、カジノ施設内でのマネー・ローンダリング対策・反社会的勢力の排除対策として以下のとおり記載されています。

●マネーロンダリング(資金洗浄)を防止する。
カジノ施設は諸外国では国際機関であるFATF(金融行動タスクフォース)勧告に基づき、疑似金融機関と位置づけられており、一定金額以上の賭け金行動をする個人の本人確認、疑わしい行為等の規制当局に対する報告義務等マネーロンダリングを防止する枠組みが法定されている。わが国もFATF勧告に基づく制度が存在し、カジノ施設をこの中に追加することにより、先進諸外国と同等の規制によりマネーロンダリングを防止することとする。

●暴力団組織の介入や犯罪の温床になること等を断固、排除する。
(前略)また、カジノ管理委員会との連携により、入場者全員の本人確認を義務付けることにより、暴力団組織等に関係する者の入場を完全に排除するものとする。

 

2 カジノ施設におけるマネー・ローンダリング対策・反社対策の特殊性・困難性

カジノの顧客は、銀行などの金融機関における取引と比べて、「一見顧客」が「継続顧客」に比べて圧倒的に多いという点に特殊性があります。

また、銀行取引のように、窓口で一定の時間をかけて、あるいは、数日かけて、顧客スクリーニングや反社チェックをして初めて取引が開始されるのではなく、(米国のネバダ州のカジノなどでは)入場約款を前提として、入場によって自由にカジノ施設内でテーブルゲームやスロットマシーンでプレーをすることができる点も特殊性があります。

マネー・ローンダリングの観点では、さまざまなテーブルゲームやスロットマシーンでプレーをすることにより、カジノ施設内での顧客の資金の流れが不明確になってしまうという問題があります。
ジャンケット制度(顧客のプロモーション、与信・債権回収をする事業者)が関わるとこの点が益々不明確になります。

暴力団などの反社会的勢力との観点では、一見顧客が多いことや入場の即時性の観点から、顧客の入場にあたっての反社チェックが不十分になってしまうという問題があります。
暴力団対策が厳格となっている昨今では、暴力団員の周辺者(いわゆる「共生者」)や偽装離脱した元暴力団員が増えており、反社会的勢力の資金源の中心となってきております。
警察ですら共生者のデータを有していないことに鑑みれば、暴力団の資金がカジノ施設内に流入するおそれがあります。また、警察は更生をしている元暴力団員もいることから元暴力団員に関する情報提供に消極的です。

カジノ顧客からの反社会的勢力の排除は日本におけるユニークな問題です。諸外国においては、マフィアである顧客が隠れてカジノ施設でプレーをしていたとしても、違法行為をしない通常のプレーをしている限りは問題視をされることはありません。
これに対して、日本においては、ゴルフ場において暴力団員が反社会的勢力でないという表明確約に違反して入場してプレーをした場合は、通常の顧客としてプレーをしても、詐欺罪で告訴されることになります。
この観点から、暴力団員が身分を隠してカジノで普通にプレーをしても詐欺罪となり得るのです。

反社データベースの観点では、警察データベースの利用は困難である可能性が大きいです。日本証券業協会を通じて証券会社は既に警察データベースと直結しており、銀行においても住宅ローンやカードローン顧客について今後、警察データベースでの照合が行われることになりますが、即時または30分以内の照会ができるものではありません。

このように、カジノ施設内でのマネー・ローンダリング対策・反社会的勢力対策は非常に困難なものであり、現在、カジノの導入にあたって問題となっているギャンブル依存症と同等に、または、それ以上に真剣に検討すべき課題と考えられます。

3 提言

カジノ施設内でのマネー・ローンダリング対策と反社会的勢力への対策は一体的になされる必要があります。筆者は以下のような制度を提言いたします。

(1)マイナンバーカード等の顔写真付本人確認書類によるカジノ施設への入場時の本人特定事項の確認
日本国籍を有する者と中長期在留者・特別永住者に限らず、また、一見顧客か継続顧客に限らずに、外国人観光客についても入場に顔写真付の本人確認書類により本人特定事項(氏名、住居、生年月日)の確認をすべきです。これにより、マネー・ローンダリングの防止及び暴力団員等の反社会的勢力の入場の抑止に資することになります。

これはシンガポールにおいて行われており、シンガポール国民/永住権保持者については、(キオスクにおいて入場税を支払うと共に)「シンガポール国民/永住権保持者レーン」において、国民登録番号(NRIC)カード、運転免許証等をかざしてカジノ場内に進めます。外国人については、「Foreigner」(外国人)レーン」から入場する際にパスポート等の顔写真付の本人確認書類を提示することによりカジノ場内に入場できます。

顔写真付き身分証明書としては、日本人であれば、運転免許証・マイナンバー制度における個人番号カード、外国人であればパスポートでの確認を求めるべきでしょう。顔写真付きの身分証明書を有しない顧客についてはカジノ施設への入場を拒否すべきです。

衆議院の附帯決議においても、以下のとおり、入場規制において個人番号カードを用いることとされています。

入場規制の制度設計にあたっては、個人情報の保護との調整を図りつつ、個人番号カード(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第2条第7項に定める個人番号カード)の活用を検討すること。

 
(2)反社データベース等
反社データベースは、望ましいのは、警察データベースや金融機関のデータベースを利用することですが、それができない場合には、反社専門の調査会社に事務委託をして、即時に反社チェックができるデータを構築すべきでしょう。

上記(1)の個人顧客の入場時に関しては即時的な反社チェックは困難ですが、個人番号カードの電子認証を介して将来的には即時的な反社チェックが可能となるかもしれません。
ハイローラーなどの継続的顧客については、フロントマネー(顧客預託勘定)やクレジットラインを設定する際に、時間をかけて反社チェックをすると共に、継続的にそれらの口座等をモニタリングしていく必要があります。

(3)反社会的勢力でないことの表明確約書への署名
日本国籍を有する者と中長期在留者・特別永住者については、(ゴルフ場で行われているように、)カジノ施設内への入場に際して、入場料を支払う窓口において反社会的勢力でないことの表明確約書に署名をさせることが考えられます。

表明確約書に署名させることにより、暴力団員などの反社会的勢力のカジノ施設への入場を抑止することができると共に、表明確約書に違反して入場・プレーしたことが判明した場合には、事後的に詐欺罪で告訴することができます。

中長期在留者・特別永住者以外の外国人に関してはいわゆる暴力団員等の反社会的勢力に該当する者はいませんが、その関係者の入場を排除するために、入場の際のゲートにおいて、「私は暴力団員その他の反社会的勢力ではありません」といったボタンを押させて入場させることも考えられます。

(4)入場についての刑事罰
上記(3)表明確約書に違反して入場・プレーしたことが判明した場合には、事後的に詐欺罪で告訴できますが、さらに、表明確約書違反について、独自の刑事罰を設けることや、暴力団員に関しては入場の欠格事由としてこれに違反した場合には刑事罰とすることも考えられます。

(5)カジノ施設内での資金の流れの捕捉
個人番号カードの電子認証や専用カードや各テーブルやスロットマシーンのバウチャーを用いて、顧客がスロットマシーンや各テーブルでプレーをする場合、ベットした金額・勝ち・負けをすべてカードで捕捉し管理することを提唱いたします。
これにより、カジノ施設内での顧客のお金の流れを捕捉することができ、ストラクチャリング(敷居値未満の取引をして取引時確認を避ける)やほとんどプレーをしない現金の引出しなどのマネー・ローンダリングを防ぐことが可能となります。

(6)取引時確認の金額と高額取引の報告義務
以下の取引について、FATFが推奨する3000米ドル以上の取引(日本円では30万円と設定)について、取引時確認・確認記録の作成・保存だけでなく、当局(カジノ管理委員会)への報告義務も課するべきです。

◇現金をチップと交換する場面
◇チップを現金と交換する場面
◇フロント・マネー(預託金勘定)を設定する場面
◇クレジット・ライン(与信枠)を設定する場面

高額取引の報告義務は、日本の犯罪収益移転防止法にはない制度ですが、米国、シンガポール、マカオにはあり、マネー・ローンダリングの抑止に一定程度役に立っていると考えられることからこれを導入すべきです。

(7)ジャンケット制度は導入すべきではない
ジャンケット制度(特にマカオのジャンケット制度)には、負の面が多く、IRの導入にあたっては見送るべきであると考えます。

ジャンケット制度については、マネー・ローンダリングの問題だけでなく、反社会的勢力の関与、高利貸しによる貸金業法違反といった問題も出てきます。

カジノ債務の取立てに関しては、中国本土の(違法な)サービサーに債権譲渡をすることにより、日本国内の弁護士法などの法律の直接の対象とならなくても、現地法の違反のほか日本のIRに関連してこのような問題が生ずることは到底許されるものではありません(これはカジノ事業者であっても同じ)。
また、ジャンケットが反社会的勢力の資金源となる可能性も否定できません。

ジャンケット制度を設けない結果として、中国本土などのVIP顧客を誘客できないとしても、ジャンケット制度の負の面を抑止することの利益のほうが大きいと思われます。

シンガポールが導入したInternational Market Agentのように、①二次請け以下のジャンケットの禁止(カジノ事業者との直接契約のみ)、②顧客への与信行為の禁止、③コミッションの分割の禁止、④顧客の個人情報の取得義務、⑤カジノ事業者への報告義務などを課すことにより、ジャンケット制度の負の面を抑止できるのではないかとも考えられます。
しかし、海外の大手のカジノ事業者にとっては、このようなジャンケットは自社の営業職員とほとんど違いがなく魅力がないものです。
Las Vegas SandsはシンガポールのMarina Bay Sandsにおいて、International Market Agentを導入していませんが、その理由について同社のCEOであるSheldon Adelson氏は、「シンガポールでは(許認可を受けたジャンケット事業者のことを)International Market Agentというが、それは言葉のとおりだ。彼らは営業職員にすぎない。彼らは信用供与ができないし、コミッションの分割もできない。すなわち、我々の100人超の営業職員と同じにすぎない」と発言したと言われています。

規制当局の観点でも、カジノ事業者の営業職員のほうが監督がし易いです。シンガポールも2010年に二つのカジノを開業後、2年経った2012年に同制度を導入したことに鑑みれば、IR導入時にただちに同制度を導入するのではなく、慎重に検討すべきです。


渡邉 雅之 弁護士法人三宅法律事務所 パートナー弁護士

(略歴) (役職)
1995年:東京大学法学部卒業
1997年:司法試験合格
2000年:総理府退職
2001年:司法修習修了(54期)
弁護士登録(第二東京弁護士会)
2001年~2009年:アンダーソン・毛利・友常法律事務所
2007年:Columbia Law School (LL.M.)修了
2009年:三宅法律事務所入所
成蹊大学法科大学院 非常勤講師
(金融商品取引法担当、平成20年~)
日本弁護士連合会 民事介入暴力対策委員会 委員
日本弁護士連合会 国際刑事立法委員会 委員
第二東京弁護士会 民事介入暴力対策委員会 委員
第二東京弁護士会 司法制度調査委員会
民法改正部会 委員
第二東京弁護士会 綱紀委員会 委員

(主要関連論稿)
『IR導入に当たって検討すべきマネー・ローンダリング、反社会的勢力の関与の問題と提言』(NBL1036号・2014年10月15日号)
『日本におけるカジノ導入とギャンブル依存症問題』(週刊金融財政事情2014年10月6日号(3091号))
『カジノ導入に当たっての論点整理(上)・(下)』(共著)(NBL1014、1015号、2013年12月1日号・12月15日号)
「IR推進法の概要と検討すべき問題点」(週刊金融財政事情2014年1月6日号)
「カジノ法案が想定するビジネスモデルと各種規制」(ビジネス法務2014年3月号)

(関心を持った経緯と今後の研究)
もともと、銀行等の金融機関のコンプライアンスを中心に弁護士業務を行ってきました。米国留学時にラスベガスを訪問しましたが、日本において同様の統合的なリゾートができれば、経済発展に非常に資すると実感いたしました。
カジノは、金融規制、マネー・ローンダリング、反社会的勢力の排除など、「小さな銀行」といった性格があり、これまでやってきた業務に非常に親近性があります。 日本においてIR(カジノを含む統合的リゾート)を導入するにあたって、どのような規制を設けていくべきかという観点から研究を続けてまいりたいと思います。


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